松菊探偵事務所―事件ファイル2―

5章

 一人二階にあがった木戸は、臥所を開け放ち、春とはいえ夜になれば肌寒く感じられる風を身に受けていた。
 障子戸前に立ち、星空を見上げながら、ふと自らの呼吸が荒くなっていることに今となって気付く。
 そして堪えていた感情が吐露し、激情となり瞳より涙を流させた。
「蝶次……」
 堪えられぬとばかりに目を閉ざすと、暗闇にほのかに映る面影に胸の鼓動が波立った。
『桂先生』
 現実味を帯びて耳に蘇るその懐かしい声。
 耳元によぎる声音に、木戸の閉じられた瞼からはさらに感傷を現すかのように涙がポロリポロリと落ちて行く。
「私の……罪」
 ……桂先生。自分はここに残る。栄太さんたちには先生は対馬藩邸に向かったと伝える。
 あの池田屋の騒動より、どれほどの時が過ぎたか。
 あの日、池田屋の前で別れた時、未だに少年の域を抜けていなかったあの子は、この月日をどのような思いを抱えて生きてきたのだろう。
 池田屋に向かわなかった私を憎んだか。憎みぬいて……生きてきたか。
 後に聞いた池田屋の死者の中には、いまだ十五の蝶次の名はなかった。

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 無事に逃げたのだろう。そう思って……されど気に掛けて。
 気に掛けながらも、騒乱の最中自らが探すことをせず、それは時が許さなかった、と心で思うのは言い訳でしかない。
 ゆっくりと重い瞼が開かれ、木戸は首に紐を結んで絶えずかけている守り袋を取り出した。
 これは幼馴染の高杉晋作が、「桂さんはあまり身を大事にしないからな」と笑って健康大事の御守りをもとめて渡してくれたものだ。御守りは一年一年で効力がなくなことは知っていたが、高杉よりの御守りであるため、木戸は未だに手放せず、肌身離さず身にかけている。
 中には高杉の遺髪とともに……一枚の写真が折りたたまれて入れられている。
 あの八月十八日の政変と呼ばれる変事の前、京都において長州藩全盛期のおり。十四代将軍家茂が上洛し、賀茂神社の行幸について議論が交わされていた、そうあのときだ。
『写真など嫌じゃ。自分はそんなハイカラなものは好かん』
 というようやく京都に上洛してきた高杉を、久坂玄瑞が強引に引っ張り、吉田栄太郎が無表情で高杉の背を押し、木戸は「記念だからね」と一人の少年の袖を引っ張って写真屋に向かった。
 五人で写された一枚の写真。
 背の高い久坂と吉田は立ち、椅子に座すのは中央に木戸。その右傍らの高杉は不機嫌きわまりないふんぞり返った顔をして座し、
 左側に無表情で目をぱっちりと開けて、身が固まったかのように座す少年の顔が、写真にはくっきりと写っている。
「蝶次……」
 結果的に、おまえたちを見捨てることになった私は、

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 今もって憎まれる対象であれるのだろうか。今の自分にその価値はあるのか。
 写真の中で微笑む自分と、今の自分とは遠くかけ離れている。
 それが悲しくもあり、ありし日の思い出がここに凝縮してあることが嬉しく、
 そして写真の中の人間を思うと心が痛む。
 ……おまえの刃は……。
 私は甘んじて受けねばならない。
 そこに階段を上る足音が聞こえた。一歩一歩に規律は一切なく、個人の性格を現すかのように統一性がない気ままに歩く音はすぐに井上と察せられる。
「桂さんよ。少しは落ち着いたか」
 涙をぬぐうことなく、木戸は井上の顔を見据えた。
 するとばつの悪そうな顔ながらも「そんなに気になることか」と口にした井上は、そっと木戸の傍らに並び、
 目敏く木戸の手の中にある写真をジーッと見つめる。
「おぉぉ桂さん笑っているな。それに久坂に高杉に……珍しい栄太が写真なんかに写っているとはよ。……うん? この子どもは誰だ」
 そっと木戸の袖を掴むようにして座している少年を、井上は指差した。
 一瞬怪訝に思い木戸は眉をひそめる。
 この蝶次を高杉が連れてきたころ井上は確かまだ京都にいなかったか。すぐに英国への密留学が決まり忙しない日日の出来事など、当に忘れているのか。
 木戸は何も言わずに目を閉じ「私の罪……だよ」と一言口にし、写真をしまった。

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「井上さん、公は?」
 木戸の様子を二階に伺いにいった井上を、心配顔をした青木が階段下で待ち受けていた。
「山県、おまえさんが上に行きな」
 青木の肩に左手を乗せ、「心配するな」と目で語って後、
 吉富が入れた茶を飲み、何か熟考するかのように黙している山県に、井上が声をポンと飛ばした。
「俺じゃ駄目なようだ。こういうときの聞き役はおまえが一番の適役だからな」
「………」
 山県は井上の言葉を無視するかのように、腕を組み目を閉じたまま熟考の姿勢だ。
「遅くなったしよ、今日は泊まっていきな。桂さんの横に蒲団敷いてやる。少し……なんだか思いつめているようだからよ。おまえがちゃんと見ていな」
「井上さん……あの人の様子は」
「それがよ。打ちひしがれてな。写真を見ながら罪などと言っていたぞ。それとよ、写真だ、写真。久坂と栄太と桂さんに高杉。それに、桂さんの袖を引っ張っている子どもが映っていたぞ」
 そんな写真、いつ撮ったんだろうな。
「写真?」
 高杉や木戸は幕末の昔より写真を撮ることを好んだが、仲間内で集合写真を撮ったなど山県には記憶していない。
「桂さんに引っ付いている子どもなどいたか。あの高杉が桂さんに付きまとう奴は片っ端らから踏み潰していっただろうに」

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「私もそのような記憶はない。それに……木戸さんが京都にいたころは私は概ね下関だ」
「俺は密留学するまではそれなりに桂さんの傍にいたけどよ」
 それでも暇があれば馴染みの芸者のところに赴く井上は、一所に居ついたことはなかった。
 二人してため息をつきそうな感じで、目と目を合わせる。
「俺には全くなにかを話すような雰囲気ではないからな。だが、おまえさんなら少しは話すかもしれん」
 上にいってくれ。
 できるだけ目を離さない方がいい。今の木戸は不安定すぎる。
 山県は軽く頷いて、立ち上がった。
「俺が公を見にいってくる」
「青木、おまえがいけばややこしくなる。おまえは黙ってここで大福でも食べていろ」
「井上さんは、この俺の力というものを知らないんですよ」
「知っている知っている」
 よしよし、と青木の頭を撫でつつ、井上の目が上に行け、と山県に指図した。
 青木の不平不満とそれを宥める井上の声を背後にしながら、
 上にあがると、すでに夜風が肌寒く感じるというのに、障子戸を開けて外を見ている木戸の姿があった。
「風邪を引かれる」
 背広の上着を脱ぎ、木戸の背中にそっとかけると、
 慌てて振り返った木戸の黒曜石の如し目が、悲しげに揺れていることに山県は息を飲む。
「貴兄は体が弱いということを忘れているのではないか」
 だがその目の悲しみに今は触れてはならない。

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ここで問い詰めては、木戸は決して心の内を語らないのだ。……目は合わせたままに、いつも通りの雑談話しを続けていく。
「またやつれたような気がする。何か食された方がいい」
「……狂介は私の顔を見ると、いつも食べ物の話ばかりだね」
「貴兄が私にこまめに注意させるほどに、何も食されないゆえだ。下より何か持ってこよう」
「狂介」
 身を翻そうとした山県の袖を弱弱しく握る手があった。
「ここにいておくれ。一人になると過去に捕まりそうだ」
 その手も、その声も、身に差し迫るほどに弱弱しく、何一つ活力が感じられないものだった。
 山県はその場に座り、木戸の頬にそっと手を当てる。
 わずかに揺れるその目が、悲しみに染まっているその目が、今にも苦しさに埋もれそうなそんな色をしていた。
「なにがあられた」
 頬にあてた手に甘えるように瞳を閉じた木戸は、
「狂介の手は冷たいね」
「……昔からだ」
「そう、昔から。おまえは何も変わらない。私がこうして欲しいと思うときに必ず……欲しいことをしてくれる」
 悲しみに染まったおりの木戸は、井上の言うとおり放っておくことはできない。
 その悲しみに引きこまれ、自らも身動き取れないところまでに追い詰められると、鬱に苛まれる。
 木戸という人間は心が脆いのだ。弱く、傷つきやすく、されど信念のもとには普段の脆さが陰を潜め、儚げな身を奮い立たせて立つ。

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「そして昔から……私が言いたくはないことは聞かないね」
 コテンと山県の肩に身をもたれさせた木戸の体を支えるために、山県は片腕を木戸の体にまわした。
 目を閉じつつ、木戸は胸元の袷を握り締めるようにして、
「私の身を覆うのは、血塗られた罪という刃ばかりだよ」
「罪? 仏の教えを説くならば人というものは生きることからして罪の上に立っているものだというが」
 目をぱちりと開けた木戸は、そこで見るからに苦笑を浮かべた。
「仏の教えなど持ち出すおまえは、本当に堅い」
「貴兄が罪などと言われるからだ」
 木戸は山県に身を預けたまま、そっと胸元にかけている守り袋を握り締める。
「……その中の罪の一つを私は忘れたふりをして、気にかけないように自らに徹した。罪と悟りながらも見捨て続けたという気の罪はなによりも重い」
 どうやらこうして甘えつつ、話しを聞いて欲しいようだ。
 山県は何も言わずに、木戸を支えながら、聞くことに徹した構えを見せる。
「あの書状は、挑戦状であり、私には悲鳴のように見える」
「悲鳴?」
「ここにいる。自分はここにいる。気付いて欲しい、という悲鳴。私への訴え……私は」
 木戸は自らの手を見つめ、それを見ながら呼吸を乱し始めた。
「私は……探さなかった。生きていて欲しい、生きている、と願いながら探さなかった。維新の混乱の中で多忙を理由に……。私が見捨てた。私が……」

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「木戸さん」
 山県の両腕が木戸にまわされた。
「貴兄はそうしていつも過去に飲まれる」
「狂介……」
「あの混乱の中で罪を背負わぬものなどいない。些細なことであろうとも罪をみな背負ってここまできた」
 木戸という人間は感情というものを「真摯」に受け止めすぎるのだ。
 曖昧に心の奥に処理することができず、いつも息苦しいまでに必死に何事も自らの身で受け止める。
 不器用な人だ。とても身を軽くして生きることなど、この人にはできそうにない。
「それにどんな罪があろうとも、貴兄は一人ではない。みながいる。支える手があることを忘れられるな」
「おまえやみなは知らないのだよ。……私の本当の姿を……どれほど惨く浅ましい人間か知れば……おまえはこの手を私にまわさない」
「それはない」
 両腕に少しだけ力を込めてみた。どうやら徹底して甘えたい木戸を、山県も徹底して甘えさせることにした。
 しかもこの甘えは無意識ゆえに始末に負えないのである。
 そして木戸が心の中で望んでいる言の葉を、刻む。
「どのような貴兄をも我らは見てきた。どの時も……貴兄を誰かが見捨てられたか? 今の貴兄の言葉は、我らを信じていないと同意語になる」
「………」
「伊藤や山田が聞けば、怒る」

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「おまえは?」
 上目遣いに見つめてくるこの目に、山県は弱い。
「……十分に怒っているのだが」
「おまえは顔や言葉に表さないから読みづらいね」
 少しだけクスクスと笑い、ようやく我をとり戻したのか、木戸はそこで大きく息を吸った。
「少しだけ楽になったよ。ありがとう、狂介」
 確かにあの切羽詰った蒼白な顔は影を潜めている。
 まだ弱弱しい気。無理をしているのが分かる。それでも微笑む気力があるならば最たるとこまで追い詰められてはいない。
 わずかに腕を解くと、そこから抜け出して木戸は下に降りていく。
「おまえがいっぱい買ってきてくれた土産をいただくとするよ」
 続けて木戸の後を追いながら、
「貴兄は、舞踏会に出席されるようだが」
「………そうだね、おまえはどうするのだい」
「致し方ない。出よう」
 この心が弱っている木戸が出席するならば、山県は見守るためにも傍にいなければ、と思う。
「……狂介のダンスというものをぜひとも見てみたいのだけど。今までどんな舞踏会でもおまえは壁にもたれるばかりだから」
「それは遠慮しておく」
 山県は舞踏会というものが大の苦手だ。男も女も着飾り、そして洋風式に「ダンス」というものを踊らねばならないという一点は苦痛というよりも拷問に等しい。
 藩命で軍事視察を目的として洋行を遂げている山県であり、露西亜や米国で「ダンス」の一般基礎は身につけはしたが、

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あのダンスのステップやらターンの一つを覚えるくらいならば、小難しい洋書を辞書片手に読む方が到って心持では楽だと思えてしまうほどだ。
 この一介の武弁という言葉を好む男には「ダンス」は難物でしかないらしい。
 下に降りると、
「公、公」
 と、途端に青木が木戸に抱きついてきて、ギュッとしたまま一向に離れる気配はない。
「どうしたのだい、周蔵」
「青木はな。真っ青な顔になったアンタを心配してきゃんきゃん吠えてばかりだ。あぁ煩かったぞ」
 井上が相当に青木の相手に疲れたのか、グッタリとした様相で茶を飲み、大福を食べている。
「そう……。周蔵、心配をかけたね」
「公、僕の公」
 あまりにギュッと抱きつくので、いささか対処に困ったという顔をする木戸を察し、
 山県が青木の襟もとを掴み、それこそ居間に向けてポイッと放り出した。
「なにをする。陸軍卿」
 恨みがましい視線を送るが、ここが青木周蔵である。
 伊藤や福地にはまさに全力で挑んでいくというのに、井上や山県には恨みがましく睨むのが精精。本人無自覚であるが、それなりに年配者に対する「敬い」があるらしい。
 徹底して青木の視線を無視し、それこそ日本橋で購入してきた大量の土産を開けながら、

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「これがいい」
 木戸が好むだろうと購入してきた「カステラ」を取り出した。
「おう、それはカステラじゃないか。茶にあいそうだな」
 疲れると茶をひたすら飲みに飲む井上のために、せっせと茶を入れに行った吉富が戻り、
「番茶にあいそうですね。木戸さんも、カステラならば食べられると思いますが」
「はい」
 食べないと、また小うるさく山県に言われるので、と木戸は苦笑した。
「カステラだ」
 青木は這うようにして客間に戻り、ちゃっかり木戸の傍らに座し、まさに涎を流しかねない目つきでカステラを見ている。
 どうやら誰もがカステラは好むらしい。
 木戸が食べられるもの、ということが大前提の山県の土産の選び方だが、みなが好むならばもっと大量に購入してくれば良かったか、といささか後悔した。
 吉富が包丁を取り出し、きれいにカステラを切っていく。
「貴兄は多めに食べられるように」
「狂介はどうしてこう私には過保護になるのかな」
「それは仕方ないだろう桂さん。アンタ、昔から危なっかしいし、好奇心旺盛で危ないことに首を突っ込むしな。山県としては目が離せない、面倒の見ようがあるほどに手のかかる。過保護にもなるさ」
 井上は小皿に乗ったカステラをぱくりと食べた。
「甘いけどな、カステラはうまい」
「吉富さん。僕のカステラは多めにしてほしいな」

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 木戸の傍では青木は一人称は「僕」ととことん徹底している。
「青木君はさきほどから大福など甘めのものばかりを食べているので。あまり食べ過ぎると太ります」
「僕はそれなりに運動しているので大丈夫ですよぅ」
「そうですね。いつもいつも福地君と口と体で汗だくになるほどの運動をしていますからね」
 吉富はにこにこと笑いつつ、井上の半分ほどの大きさのカステラを青木用の小皿に置いて、差し出した。
 不平不満といった顔を吉富に向けるが、それで終わる。青木はいたってこの探偵事務所を取り仕切る吉富が怖く、それこそ抗う言葉すら出ない。
「陸軍卿は?」
 山県は軽く頭を振った。
 お菓子類は山県はよほどのことがない限り口にもしない。
「簡一さんよ。こいつは西洋の砂糖というものが体にあわないみたいなんだ。何度も具合が悪くなっているのを見ているからな」
「そうですか。砂糖とは……不思議ですね」
 洋行中にも山県はこの砂糖のおかげでひどい目にあっている。
 それこそ思い出したくもない……片鱗でも砂糖の甘さを思い出すだけで頭痛を覚えるほどだ。まさに砂糖とは相容れない体のようだ。
 吉富は木戸の皿にそれこそ大きめのカステラを置く。これは多すぎる、という木戸の顔に、山県は一睨みで全て食されるように、と念を押す。
 両手で持たねば食べられないほどの大きさに辟易しながらも、全ての人間の眼が「全部食すように」と向けられるので、木戸は少しずつちぎりながらも黙々と食べ始めた。

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(食が入るならば……随分と落ち着いたということか)
 山県もホッと安心し、吉富が入れてくれた番茶を飲みつつ、頭の中では「蝶次」という言葉をまたしても繰り返す。
 明日、廟堂に赴き、伊藤や山田に聞いて見ねばなるまい。
 人斬り蝶次。
 かつて高杉晋作が蝶坊と呼んでいた少年の姿を、ようやく山県は思い出すに到っていた。
「うわぁぁぁぁ、カステラ」
 そこに吉富にポイッと外に放り投げられ、一人月を見ながら近所を一周して戻ってきた福地は、肌寒さに少しばかり震えていたが、飯台に乗っているカステラを見て、目の色が変わった。
「心配しなくても、福地君の分もとってありますよ」
 吉富に小皿が渡され、そこには青木と同様に小さなカステラ一欠片が乗っている。
 福地はその小ささに少しばかり不機嫌になったが、青木の顔を見るとコチラも不満顔と見てとり、ははん、と笑った。
「おい、チビガキ。大福をたらふく食べたおまえはカステラが当たらなかったのか」
「なにいってるのかな、福地君。君ならばまだしも吉富さんがそんなことするはずないじゃないか」
「じゃあその不満な顔はなんだ」
「………別に」
 ぱくりとカステラを食べ、うまい、と福地は舌鼓を打った。
「陸軍卿、今度はもっとカステラを買ってきてくださいよ」
 青木はジロリとした視線を山県に向け、
「カステラなら俺も大賛成だな」
 福地も同様の視線を向ける。

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 山県としてはこの二人のために大量の土産を購入してきているわけではないのだが、
 この騒々しさに釣られるように木戸が微笑むのを見て、この二人も一応は木戸の気分転換には役立っている事実は認めた。
「……考慮はしておこう」
「ついでに俺様にも、だ」
 ちゃっかり井上が加わってきたことに、山県は重い吐息を漏らした。
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