逝く者、いくもの

26章

 四月ニ九日。箱館軍は富川において相次ぐ海からの砲撃に晒された。陣地とした富川八幡宮の裏手一帯までの海からの距離はわずか一里(四キロ)に満たない。 山岳を自然要害として二重構造の土塁を構築。この地を箱館防衛の最後の要害としていたが、難点と言えば矢不来台場と比較して標高が低かった。
 征討軍の猛攻に箱館軍は富川を死守することができず、その日のうちに有川に撤退した。
 有川には、五稜郭から総裁の榎本も駆けつけていた。
「すまないね、釜次郎」
 大鳥がちょいと頭をかきつつもペコリと下げると、当の榎本は豪快に笑い飛ばす。
「なに、圭介が謝ることじゃない。いけねぇ状況に俺は引っ込んでいることなどできんよ。今日は大砲を敵艦にぶつけてやる」
 榎本は疲労著しい大鳥の肩をポンと叩く。
「いつも通り笑ってくれ。圭介、おまえさんは笑顔が取り得じゃないか」
 さらにその頭をポンと叩かれ、大鳥は珍しくばつの悪い顔をした。
「伝令から諏訪くんの件は聞いているさ。この件については全軍の前で憤慨しておくから心配するな」
 会津遊撃隊隊長の諏訪の矢不来陣地への置き手紙は、すでに全軍に知れ渡っていた。会津遊撃隊は肩身が狭くなり、臆病者のそしりを払拭するためか、ことさらに戦陣を切って敵に向かって行く者が少なくなく既に多くの死者や負傷者を出している。

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 全軍の士気も目に見えて落ちていた。それを見て大鳥は榎本に戦場に出向き指揮を取ってくれるよう打診したのである。
「圭介は大砲の腕前はからっきしだからな。後方で軍の編成をお願いするよ」
 大砲ばかりか鉄砲の腕前もからっきしである。ついでに馬に乗ろうとすると後ろ脚で蹴られ吹っ飛んだこともあった大鳥だった。人間、得手不得手というものがある。大鳥は砲台での指示系統を榎本に一本化し、各隊長への指図に駆けまわった。
「大鳥さん」
 富川での一戦でしんがりをつとめた額兵隊は負傷兵が多いこともあり、北裏手に布陣していた。今も軍医が駆けずり回って応急処置をしている。ラシャ製の赤と黒のリバーシブルの軍服が有名なこの隊は勇猛果敢な兵士が多く、特に隊長の星恂太郎は血気盛んだ。
 その星が手を振って大鳥を呼んでいる。今日は戦闘中を意味する黒の軍服としている星は大鳥の腕を掴んで、暗い顔で言った。
「本多くんから目を離さんでくれ。嫌な感じがする」
 開口一番の星の言葉に大鳥はピクリと肩を浮かした。
「富川でな。俺達がしんがりだったが、本多くんもいたんだ。最後まで敵に斬り込もうとするから、伝習隊の総督がなにやっていると引きずって連れてきた。なんか目がな。正気じゃない」
 その言葉を受けて大鳥は本多を探す。富川から撤退する際は、大鳥が伝習隊を率いた。当然、横にいるものと思っていた本多が気付いた時にはどこにもいなく、その瞬間に血の気が引いた。
(あの死にたがりが)
 やはり富川八幡宮で死神祓いをしてもらえば良かった。まぁ八幡宮の宮司はとうの昔に戦を避けて避難していたため

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厄払いなどできはしなかったが。
 探すまでもなく本多は伝習隊の陣地におり、軍医から傷の手当てを受けていた。
「大鳥さん」
 軍医の望月が顔をしかめて大鳥を見た。
「本多さんにきつく言ってください。この腕で刀を持つなど無茶だ」
 本多はと言うと、下を見たまま大鳥と目を合わせはしない。その顔は血の気がなかった。望月に治療を受けている腕などは傷がバッカリと開き、血が止まることなく流れている。
「縫わないとならないな」
 その傷をジッと見つつ、大鳥はため息をついた。
「本多。おまえは負傷兵を連れて一度箱館に戻れ」
 そこでパッと顔をあげた本多をいつもになくきつい目で大鳥は睨みつける。
「その傷で戦陣が切れるか。まずは傷を治せ」
 陸軍奉行として大鳥が命じたことを本多はよく承知していよう。だがその目は大鳥を見ているが、虚ろで現実味がない。
「本多?」
 額兵隊の星が言う「嫌な感じ」とはこれのことだろうか。
 本日の朝までは大鳥の傍らで穏やかに微笑んでいた男が、今はその目の奥底に覇気がなく夢を見ているかのように虚ろで焦点がはっきりとしない。
「……皆の話だと本多さんは傷が開いてからおかしいって言うんですよ」
 望月は応急処置で薬草を塗り、その後に屑の露を垂らして包帯を巻いた。これで血は止まるかもしれないが深手には違いない。

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無理をさせれば生活に左腕は支障をきたすことになる。
 自分を見ているようで見ていない本多。その心は遠く遠くにいってしまったようで、大鳥は胸がジクジクと傷み、無意識に本多の肩に両腕を回していた。
「死ぬな」
 耳元で力強く大鳥は叫ぶ。
「死なないでくれ、本多」
 いつも以上に本多は死に急いでいるような気がして胸が痛い。
 毎日毎日「死ぬな」と言い聞かせ、この頃はその言葉が少しか浸透してきたようだと安堵を抱いたのが祟ったのか。
 心を閉ざし、現実からも目を閉じて、今の本多はただ死だけを望む人形のようになってしまっている。
 いつどこで本多の心の一線が切れてしまったのか。いつも「大鳥さんを守ります」と微笑んでいた男が、なぜに敵陣に斬り込む無茶をしでかしたのか。
「本多さんは昔から刀を持つと、人が変わるからな」
 差図役の根村がポツリと呟いた。
「それにその傷を気にしていた。いつまで戦場に立てるのか。いつまで刀を振るえるのか。傷が開いた時にこれが最後と考えたんじゃないのか」
「武士として闘えないのは死ぬより辛いと言っていたからな」
 仲間たちは本多の心情を思いやり、重い吐息を漏らす。
「そんなことで死なせてたまるか」
 大鳥は叫んで、本多の頬を両手で掴んだ。
「本多。おまえは伝習隊の総督だ。最後まできちんと自分で指図しろ。俺は預からないからな。そんな暇はないし、こいつらは俺が命令だすとため息ばかりだ。だからおまえが責任をもて」

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 言いながら情けないと思いつつも、これも事実だからいたしかたない。
「おまえは両利きだから、左腕が使えなくとも右腕がある。幼いころから右は鍛えていたんだろう。なら右腕一本で戦え。あぁよぉく分かった。本多は戦場を離れる男じゃない。離れるくらいなら斬り込むと言うなら、伝習隊率いさせておく方がまだましだ」
「大鳥さん。そりゃあないぜ」
「うるさい」
 疲労著しい伝習隊の仲間たちに大鳥はありったけの声で叫ぶ。
「おまえらも自分らの総督に縄でもつけておけ。鉄砲玉のように飛んでいく奴だからな。大将の手綱はきちんと掴んでおけよ。俺は忙しいんだ。いいか、本多。俺は忙しい」
 その時、本多の目にわずかに翳った憂鬱な色合いを大鳥は見逃しはしない。
 そこで大鳥は背を向けて、走りだした。
 今の本多にいちばん効果的なのは「死ぬな」ではなく「忙しい」という言葉だと実感した。戦場で深手を負いどこか緊張の線が切れ、本多の意識は「闘う」ことのみに集中した。 その本多の最後の足かせとなるのが「伝習隊」だ。意識が朦朧となろうと自らが伝習隊を率いる立場である責任を忘れる男ではない。
(俺が伝習隊を預かったら最後だ)
 その時は本多は責任から逃れどこにでも飛んでいってしまう。
(俺の楯になって死ぬのが本望といっていたのにな)
 それ以上に「闘えず」に強制送還されるのが本多には苦しいことだと始めて知った。
「畜生が。どいつもこいつも死にたがり屋で……」
 その連中の血走りを止めるのに本当に大鳥は忙しい。

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 箱館軍は有川で持ちこたえることができずに、七重浜付近まで撤退した報告が箱館病院に入った。
 有川では榎本が全軍を指図し、自ら大砲を敵艦隊に向けて発射したともいう。総裁自ら戦陣に立とうとも、数と艦隊に勝る征討軍の勢いを挫くことはできなかった。 箱館軍の死傷者は二百人を超え、箱館病院では負傷者の収容が追いつかない現状となっていた。
 小五郎は休みなく薬草を煎じることや屑の露を絞ることに専念している。ヨモギの葉の備蓄も底を尽きようとしている。少しでも手が空けば箱館山に採取にいこうと思っているが、その時間も取れないでいた。今の時期、蝦夷の山にはヨモギが群生し、ヨモギ畑になっているところも多かった。 消毒液はとうに底がついた。近くの酒問屋の主人が治療代として置いていった焼酎を、高松は消毒液の代わりに使っていたが、これも時間の問題だろう。
「有川じゃ敵を味方と間違えて陣地に通したらしいぞ」
 左足を負傷した彰義隊の兵士が横の兵士に囁く。
「ありえんことだ」
 その話は小五郎も耳にしていた。味方と勘違いをして通したため、敵は有川の裏手に回り込み、一斉に小銃をもって箱館軍に発射したという。
 敵の数は多くはなかったが、突然の背後からの攻撃はその場を狂乱させた。源義経の鵯越の逆落としの例もある。
 混乱の最中、箱館軍は我先にと七重浜方面に撤退を始める。各隊長は必死に制御にかかるが「恐怖」の感情に勝るものはない。叱咤しようとも味方の逃げる足を止めることは適わなかった。

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 榎本は大砲を発射し続け撤退を拒んだが、部下が説き伏せて馬に乗せ五稜郭に走らせた。最後まで有川に残ったのは額兵隊の数名だ。
「星さんが撤退を拒否したらしい」
 額兵隊は急襲を受けた有川北裏手に陣取っていた。突然の襲撃により戦場は分断され、額兵隊の仲間が置き去りになった。仲間を見捨てることは星にはできない。 星は残った仲間と共に置き去りとなった仲間を助けようと最後まで有川で戦った。額兵隊の被害は大きかったが、星の活躍により仲間たちと合流しどうにか七重浜に撤退することができたという。
『医者さんよ』
 とニタリと笑った星の顔が目に浮かぶ。
「高松先生」
 ヨモギがすでに底を尽きようとしている。負傷兵は続々と運び込まれ、夜にはさらに増えるだろう。
「ヨモギの葉を積んできます」
 高松はちらりと小五郎を見て、軽く頷いた。高松も薬草の備蓄については念頭にあったようだ。
 小五郎は走った。玄関先で勝股と会い、高龍寺の薬草や包帯の備蓄について尋ねると、ほとんど底を尽いていると暗い顔でいった。小五郎は山に入った帰りに旧箱館奉行所に寄り包帯の補充を頼んで来ようと思う。そこには箱館奉行の永井が居るはずだ。
 一時をも無駄にできぬと走る。昔と比較するとすぐに息があがり、休みながらでないと走れなくなった。労咳の病みあがりということも忘れ、ただ走る。急斜面の坂が終わると、子どもの手を握って海を見据える沢辺琢磨と目があった。
「どうしましたか」

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 どこか張りつめた緊迫さを忘れさせるのんびりとした声で尋ねられ、小五郎は「薬草を」と手短に伝える。
「それなら露西亜領事館の裏手にヨモギの葉が群生しています。こちらにどうぞ」
 沢辺は小五郎の返答を待たずに歩きだした。
 その後ろを小五郎は付いていくと、沢辺に手を引かれて歩く十歳ほどの子どもがチラチラと小五郎を振り返る。
「この子は会津の西郷さんのご子息で吉十郎と言います。縁あって預かることとなりまして」
「会津の西郷……」
 どこかで聞いた覚えがある名だと思ったが、すぐには浮かばない。
「五稜郭には子連れで戦に参戦している人も多くいます。だが子どもを戦で殺したくはないという親心もあるのでしょう。教会ならば征討軍も踏み込まないと思って子どもさんを預けにきます」
 小半時もかからずに露西亜領事館に入ると、教会は聖堂を設えた堂々とした佇まいで他を圧倒していた。聖堂の楼閣には五個の鐘が設置され、この音が箱館の街に響き渡っているのかと感慨深げに小五郎は見上げた。
 教会は立派だが、その横にあると聞いていた露西亜領事館の洋館は見当たらず、周囲には粗末な仮小屋が無数に建つ異様な光景に小五郎の目は点になる。
「二年前に領事館は火事で喪失しました。今はこの仮小屋や近くの民家を借りて業務を行っています」
「……そうでしたか。火事で」
「えぇ。港町特有で実に火事が多い。火がつくと風に乗ってあっという間に燃え上がるので注意が必要ですよ」

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 沢辺はヨモギの群生地に案内した。話の通りに領事館の裏手一面にヨモギが群生しており、それは「ヨモギ畑」というに相応しいほど大量だった。
「助かります」
 小五郎はホッと胸をなでおろす。ないない尽くしの箱館病院においてヨモギの葉は止血剤に最も効果がある薬草と言えた。
「大きなカゴを持ってきますね」
 現在、箱館に領事館を構える国は「蝦夷政権」に静観の構えを取っていた。各国は日本の闘いにおいて「中立」の立場にいる。だが、目に見えた支援ではないが、商船の手配や民間人の保護において協力を惜しまず、沢辺のように子どもを預かるなど人道支援をするものも多い。
 吉十郎は一言も口を聞かず、黙々とヨモギの葉を積んでいく。葉は生薬として効果があり、新芽は天ぷらにもでき、汁物の具として食べることができる山菜だ。
 それを知っているのか吉十郎は葉と新芽を見つけるとそれも丁寧な手つきで積んでいく。
「これくらいの籠しかなくて」
 沢辺が戻り二個の籠を小五郎の前に差し出した。小五郎は素直に感謝の意を伝える。病院から持ってきた籠とその二つの籠に積めば相当の量になる。これで数日は持つだろう。
 葉を積んでいる際に鐘が鳴った。祈祷の鐘だと沢辺が言う。真下で聞く鐘の音は実に耳に痛い。この教会が「ガンガン寺」と呼ばれた由来が、鐘にあることがよく分かる音だ。始めは驚いたが次第に慣れ、ついには鐘の音も忘れてヨモギを積む。
「この箱館の街を戦火で藻くずにはしたくありません」
 不意に沢辺は小さく呟いた。

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「ここは日本と異国が共存して成り立つ街。この国にも数少ない和洋が融合された面白い街です。これからも異国文化の先端として発展していくと私は思っています」
 小五郎はヨモギを積みながら、沢辺の顔を見る。
「火消し団は設置されていますが、いざ戦争になると人は火よりも逃げることを優先する。火がこの異国情緒ある街を飲みこむことは見るに絶えません」
「……火は恐ろしいです」
「はい」
 小五郎は手を止めると、火という言葉に震える吉十郎と目が合った。その怯えが尋常ではない。見かねた沢辺がそっと吉十郎の手を握り締める。
「吉十郎は会津で城下を焼く炎を見たそうです。それ以来、声を出さなくなったようで」
「……そうでしたか」
 会津戦争は昨年の九月に終結している。その際の戦況は旅の最中に噂話として耳に入っていた。特に藩士の家族が「足手まといになる」として城に入らずに一家心中を遂げたという凄惨な話に耳を疑った。 その数は三百とも言われている。
(西郷……そうか)
 そこで小五郎は思い至った。会津藩家老西郷頼母の家族が親戚縁者二十数人もろとも自刃して果てたという話を聞いた覚えがある。あの時、小五郎は吐き気がこみ上げた。この国は何かがおかしいと強烈に思ったのもあの瞬間だったかもしれない。
(この子はこの年で一家心中を見たのか)
 沢辺に手を握られたからか、少し落ち着いた吉十郎はまた蓬の葉を積み始めた。

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 吉十郎は声が出ないのではなく、言葉を発したくないのではないのかと小五郎は思った。
「私は吉十郎のような子どもをこれ以上増やしたくはありません。どうにかこの箱館を戦に巻き込まない方法はないものでしょうか」
 ハッとして沢辺を見た小五郎だが、すぐに頭を横に振るしか返答のしようがなかった。
 それはここ数日、小五郎が考え続けている問いと同じことなのかもしれない。
「いつも思います。戦争をどうにか止められないかと考えます。そしていつもいつも……今できることをするしかないと非力さを痛感します」
 沢辺はどこか驚いた眼をして小五郎を見た。
「このヨモギの葉があれば止血に用いることができる。屑の葉があればさらにいい。戦争を終わらせることよりも、今目の前のこと。とりわけ負傷兵の手当てのことばかり私は考えています」
 どうにかして助かる命を一人でも多く助けたい。医療用具がないために失う命を減らしたい。
 小五郎の立場では戦局を好転させることなどできぬが、怪我人の介抱に尽くすことはできる。ならば今できることに集中をし、どうにもできぬことに神経をすり減らすのはやめようと決めた。
 沢辺は小五郎の目をジッと見て、驚きを率直に表情で現した。
「あなたは前に病院で会った時……失礼だが死に焦がれた目をしていましたね」
「……」
「今は生きることを考えているようで、安心しました」
 そこで沢辺は自らのクロスを握り締め、神に感謝の言葉を捧げ

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始めた。
 鐘は鳴りやんでいる。小五郎はわずかに顔をあげ空を見ると、ゆうゆうと雲が往くのが映った。心持ちまぶしいが、空の色は心に染みる。
(生きるというよりも、死にたいと思わなくなった)
 不思議なものだ。今までは何度空を仰ごうともその色がこの身にしみることはなかったというのに、今はその空色を見つめると心が穏やかになる。
 ヨモギの葉を籠からあふれるほどに積んだ。沢辺と吉十郎が箱館病院まで一個ずつ運んでくれるというのでそれに感謝の言葉を告げて、小五郎は箱館病院まで歩く。走ればヨモギの葉が落ちるので、今は一枚も無駄にしたくはないと思い振動がないように歩く。箱館奉行所には蓬を置いてから訪ねようと決めた。
「毎日とはいきませんが、ヨモギの葉を積んで届けさせます」
 沢辺は穏やかな口調でいった。
「こんなことでしかお役に立てず申し訳ありませんが」
 小五郎は微笑んで感謝を述べ、血の臭いが染み付いた病院内に入る。
 そこには蟠龍から搬送された負傷兵が運ばれてきており、多くの負傷兵を病院内に収容するのに人手が足りていなかった。
 小五郎は走った。沢辺も籠を吉十郎に預けて走る。
 四月ニ九日、征討軍は五稜郭から一里半の距離……七重浜に迫っていた。
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